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第7回日本不安症学会学術大会の開催にあたって

 第7回日本不安症学会学術大会を平成27年2月14日(土)・15日(日)に、広島アステールプラザで開催することになりまして、ご挨拶を申し上げます。
 本学会は2009年3月に第1回学術大会を開催した新しい学会ですが、環太平洋パートナーシップ協定による関税の撤廃・金融や医療などをはじめとした種々の規制緩和・非正規雇用の割合の増大など、昨今の我が国を取り巻く社会構造の基盤の崩壊から、本学会の社会的意義は極めて重大となっております。国際社会に目を向けましても、クリミア半島の帰属をめぐるウクライナとロシアの争いに端を発した新たな冷戦構造や、混迷の度を増すエジプトなど中東諸国の動乱、リーマンショックに代表されるような国際経済の極端な変動など、何を基本に将来予測をしていいのか世界中が不安に陥っている状況にあります。我が国のかつて抱えてきた代表的な不安は、夏目漱石や芥川龍之介の作品にみられる近代文明の発展や我が国の西洋化に対する不安として記載されています。このような社会文化の変遷により、これまで当たり前と思っていた価値や規範が崩れていく過程では、ハイデッカーの提唱した現存在という存在を維持することは困難となり、おぼろげな不安から顕著な不安へと重篤化するか、あるいは極端な価値の一極化によって不安を防衛することをかつては選択してきたと思われます。
 その一方で科学の進歩は、不安症の病態に最も関係が深い脳部位は大脳辺縁系に属する扁桃体であり、端的に言えば不安・恐怖といった情動機能のセンターであることを教えてくれました。当然、扁桃体のみで不安恐怖に関する情動反応を調節しているわけではなく、古くは記憶の回路として報告されたヤコブレフ回路が、不安恐怖の神経ネットワークの原典になっております。扁桃体の基底外側核には膨大な感覚器からの不安恐怖についての情報が、大脳皮質連合野・海馬・視床核・脳幹部などを介して入力されます。この情報は同じ扁桃体の中にある中心核を経由し、脳の他の部位へと伝達されて動悸・血圧亢進・発汗・呼吸数亢進・すくみ反応などの身体症状を導きます。
 同時に薬理学的な進歩から、不安恐怖の神経ネットワークを司る重要な神経伝達物質はグルタミン酸であることがわかってきました。そして、不安症の治療に用いられている抗不安薬や選択的セロトニン再取り込阻害薬(SSRI)は、扁桃体のGABA受容体の活性化を介して、グルタミン酸神経回路を抑制することで作用を発揮することもわかってきました。
 不安症の精神療法である認知行動療法の発展から、例えばパニック障害の病態メカニズムとして身体症状に対する誤った脅威の感覚に端を発した破局的解釈が根底にあることがわかってきています。このような誤った感覚と破局的解釈に対する認知の修正や、恐怖感に対する馴れを導くエクスポージャー療法などが、認知行動療法の技法として注目されています。
 このように不安症という病態について、哲学から認知心理学や脳科学までそれぞれの分野で画期的な発見が報告されています。第7回学術大会では、多様な分野での不安に対する研究の進歩を一堂にまとめ、新たな包括的治療の開発をめざすという目的から、大会のテーマを「不安症の包括的治療を目指して」とさせていただきました。本学会では医師、脳科学研究者、臨床心理士、看護師、保健師、精神保健福祉士、の皆様をはじめ、第6回大会からは教育現場で活躍されている学校保健関係者の皆様によるセッションも開設され、不安という問題に関する包括的な議論ができる土壌が醸し出されております。本大会が不安症に関する多様な分野からの情報交換の場となり、包括的な見地からの病態理解と治療法の開発が促進され、不安症患者さんのQOLの改善に少しでも貢献できることを願っております。
 本学会会員の皆様のみならず、不安に興味をお持ちの広い分野からの皆様のご参加を、心からお待ちしております。
 
第7回日本不安症学会学術大会
大会長:森信 繁
(高知大学医学部 神経精神科学教室 教授)